JGMSは、医師や医学生の海外留学を支援し、国内医療のグローバル化を目指すNPOです。留学経験のある医師を招き、定期的に講演会を行っています。
アメリカ・ポスドク生活
中内 祐介
Yusuke Nakauchi M.D., Ph.D.
Postdoctoral Research Fellow
Division of Hematology, Cancer Institute
Institute for Stem Cell Biology and Regenerative Medicine
Stanford University School of Medicine

はじめに

2014年9月からアメリカ、カリフォルニア州にあるスタンフォード大学医学部血液内科に ポスドクとして勤務している中内祐介です。 血液内科医として数年間臨床医をしていましたが、幹細胞生物学に興味を持ち、大学院修了後、スタンフォード大学にたどり着きました。血液学のスペシャリストであるRavindra Majeti教授のもと、白血病の病態解明・治療薬開発に関する基礎研究をしています。こちらで生活をはじめて1年数ヶ月。近況をご報告させていただきます。

留学先都市の情報

文系学部が集まる場所

スタンフォード大学(カリフォルニア州スタンフォード)を中心とするベイエリア周辺、いわゆるシリコンバレー(サンフランシスコ湾を取り囲む盆地地帯に半導体やコンピュータ関連産業が集積したことによる呼称)は、今や知らない人はいないAppleやFacebook、Googleといった超有名企業のみならず、「これからおもしろいことやってやろう!」と意気込むスタートアップ(=ベンチャー企業)も数多く集まる、いろいろな意味で世界をリードしている活気に満ち溢れたところです。

シリコンバレーの人口は約300万人(カリフォルニアで最も人口の多いロスアンゼルスは約1500万人、スタンフォードに近いサンフランシスコ市は約80万人)。面積は東京都の約2.2倍で、白人、アジア系、ヒスパニック、アフリカン・アメリカン、他、多くの人種が集まる地域です。気候は地中海性気候で、夏は乾季、冬は雨季(といっても日本とは違い、朝晩で少し雨が降るくらいで、一日中雨ということはまれ)で、寒すぎず、暑すぎず(でも日差しは無茶苦茶強い・・・)、一年中過ごしやすいところといえます。 非常に広大な土地に人が集まっているため、基本的に車がないと生活が成り立ちませんが、少し車を走らせれば大自然を満喫できるので、アウトドア派の方には最高の場所かもしれません。

大学内にある教会

治安に関して、これは場所にもよりますが、特にスタンフォード大学近辺は全米でトップクラスの治安の良さであると言われています。日本と比較しても、かなり安全な方なのではないかと思います。私自身は未だに銃声を聞いたことがありませんし、10年以上シリコンバレーに住んでいる知り合いに聞いても銃声は聞いたことがないと言っていました。統計学的には少ないですが、みなさんが想像しているほど危険なところではないのは確かです(シリコンバレー以外は住んだことがないのでわかりません・・・)。

留学の経緯

Majeti教授と(米国血液学会)

2014年に学位(医学博士)を取得しましたが、私自身は医学部時代から、研究をするならどこか海外に行って研究をしたいと思っていました。大学院4年生の冬(2013年)に米国血液学会(アメリカ・ニューオリンズ)で研究発表をした際、私と同じ血液内科医で、スタンフォード大学に基礎研究室を持つ、抗体治療薬やヒトの白血病幹細胞研究で有名なRavindra Majeti教授(以下Ravi)に出会うことができ、学会のあとに彼のラボでjob seminar(=大学院時代の研究を教授とラボメンバーの前で1時間ほどかけてプレゼンテーションする)の機会を設けてもらいました。最終的には2014年の9月から博士研究員(ポスドク)として、雇ってもらうことになりました。実際に渡米するまでに、何度もSkypeで彼と面談(具体的には、ちゃんと学位は取れるのか?どういう研究をしたいのか?フェローシップはどこからかもらえるのか?将来の目標は?など、かなりリアルな話をしたことを覚えています)をしましたが、最終的に私のやる気とこれまでの経験などを踏まえて、雇ってくれることになりました。Raviの研究実績はもちろんですが、それ以上に最後は彼の人柄やラボの雰囲気に惹かれ、決めたと言っても過言ではないかもしれません。通常は何でも良いから日本からお金を持っていくのですが、私の場合は、大きいフェローシップはありませんでした。ただ、ちょうどラボの変革期で、数人のポスドクが卒業したこと、ボスがやりたい研究をしてくれるポスドクを探していたことなど、いろいろと運もあり、給料ありでの就職が決まりました。正式に就職が決まったのは渡米の3ヶ月前の2014年6月でした。そこから飛行機の手配、ビザの申請、引っ越しの準備など、大変でした・・・。

大学、研究室、病院の情報

スタンフォード大学(正式名称:Leland Stanford Jr. University、校訓:自由の風が吹く)はアメリカ西海岸カリフォルニア州にある大学で、有名なゴールデンゲートブリッジのある港町サンフランシスコから南東約60km(ロスアンゼルスからは北に約600km)のところにあります。大陸横断鉄道の創立者であり、元カリフォルニア州知事でもあるLeland Stanfordが、若くして腸チフスで亡くなった息子の名を残すために1891年に設立しました。学生数15000人以上、卒業生にはGoogle共同創始者のLarry Page、Nike創始者のPhil Knight、Hewlett-Packard共同創始者のWilliam HewlettとDavid Packard 、さらにはテニスのJohn McEnroeやゴルフのTiger Woodsなどがいます。ちなみに敷地面積はロシアのモスクワ大学に次ぐ世界第2位を誇り、学問だけではなく、大学の大きさでも世界トップクラスのようです。どのくらい広いか?東京ドームの700倍の面積で、学内で毎年結構な人の数が迷子になるくらいの広さです。

余談ですが、スタンフォード大学の学生の授業料は年間約4万〜5万ドルと非常に高いのですが、実際は大部分の学生は何らかの形で学費のサポートを受けており、毎年多額の授業料を払う必要はないそうです(2-3割の学生は親が超金持ちで学費を普通に払っている)。また2019年からは家庭年収が12万5000ドル未満の学生の授業料を無料にするということが決まっています。こういうことが可能なのも、著名な卒業生による多額の寄付によって、大学がうまく学費援助プログラムを充実させているからだと考えられます(大学内には寄付した人の名前のついた建物がたくさんあります)。最近のデータではスタンフォード大学の寄付金は全米トップで約7億900万ドル(1ドル=120円換算で900億円以上)、東京大学の約70億円をはるかに上回る額であることがわかります。こういうことに惜しみなくお金を投じるところに国の豊かさ・懐の広さを感じます。

前置きが長くなりましたが、私の研究室は広大なスタンフォード大学の西側にあるLorry I. Lokey Stem Cell Research Building(写真)の3階にあります。この建物はその名の通り、実業家・慈善家のLorry I. Lokeyが幹細胞研究の発展のために寄付した建物です(2010年設立)。ここには幹細胞に絡んだ研究(がんや発生学など)やiPS細胞に関する研究など、いくつもの研究室が集まって様々な研究が行われています。「自由の風が吹く」という校風にふさわしく、研究室間のつながりは気持ちが良いほど自由で、試薬・実験器具の貸し借りはもちろん、コラボレーション研究など、他のラボメンバーとの交流が非常に盛んです。私が知る限り、2015年12月現在この建物内だけで日本人ポスドクが少なくとも10人はいますが、スタンフォードの外国人ポスドクのランキング は1位ドイツ人、2位中国人、3位韓国人らしいです(2014年大学データ)。

私が所属するDivision of Hematology, Cancer InstituteのMajeti研究室は大きく2つのグループで構成されています。1つは、CD47というがん細胞に多く発現している細胞表面タンパクに対する抗体を用いたがん細胞治療の研究グループ、もう一つは急性白血病発症のメカニズムの解明および治療法の確立を目指したグループです。前者はすでに臨床研究がスタートしており(http://stemcell.stanford.edu/CD47/)、近い将来、臨床応用が期待されます。私のボスであるRaviはこのプロジェクトの中心になり、早期臨床応用を目指していますが、基礎研究での成果を臨床に応用するという、日本ではなかなか実現が難しかったり、時間がかかったりすることを、ここスタンフォード大学では当然のように数多く行われていることを知り、愕然としました。私自身は後者の白血病研究に従事していますが、簡単な研究内容に関して、留学半年の時点で書いたものがありますので「参考文献など」をご参照ください。最近、1年ちょっとかけてようやく本格的な研究を始めるのに必要な道具が揃ったという段階なので、まだ偉そうなことは言えません。近いうちにexcitingな結果を論文にしますので、ご期待ください!!とだけ宣言しておきます。

スタンフォード大学附属病院について、私自身は基礎研究室に配属されていますので、特に病院に行くことはありませんが(散歩がてら病院の待合室に行き、無料のコーヒーをもらいに行ったり、夜遅くまでやっている食堂に行ったりはします)、ボスの所属部署の関係で、肩書はスタンフォード大学医学部血液内科の博士研究員となります。病院の詳細についてはホームページを見ていただいた方が早いと思いますが、我々の研究室はヒトの血液サンプルを毎日のようにdutyとして集めていて、その全ては附属病院血液内科を受診する白血病患者さんからのものであり、ラボに取っては貴重な研究材料となっています。現在、遺伝子情報の明らかな多くの血液サンプルをストックしており、いつでも好きな時に実験に使えるように管理されています。ちなみにメインの研究以外にも同時進行でいろいろやっておりますが、ほとんどのポスドクは一つのテーマに集中するというよりは、いくつかの研究テーマを抱えて、仕事に取り組んでいるようです。 写真はラボのメンバーと幹細胞研究の大家、Irving Weissman教授と一緒に撮影したもの。右端のDanは同じポスドク仲間ですが、研究はもちろんのこと、中東情勢や宗教にも詳しく、教養のない私にいつもおもしろおかしくいろいろ教えてくれます。

ラボのメンバーと幹細胞研究の大家、Irving Weissman教授と一緒に撮影

留学一般に関する情報

助成金など、留学に関する情報を掲載したwebsiteはいろいろあると思いますが、JGMSのスポンサーであるRelo Redac, Inc.で、「実際にアメリカで研究されている方からの経験と意見をもとに、研究留学される方たちのためだけに特化した情報やサービスを提供したい」というコンセプトのもと、留学一般に関する多くの情報を掲載したサイトが先日公開されました。私も少しばかり協力をさせていただきましたので、この場で宣伝させていただきますが、これまで集めにくかった留学情報をまとめてくれていますので、間違いなく皆さんの留学を大きくサポートしてくれるものと思います。ただし、サイトはまだまだ発展途上で、利用された皆さんからのフィードバックが大変重要になります。ぜひご利用の際に何か感じたことなどがありましたら、サイト内の「お問い合わせ」のところからご連絡頂けると幸いです。ちなみに私自身の場合、このような素晴らしいサイトは残念ながらありませんでしたので、実際に留学した方のお話や、「参考文献など」を参考にしながら、出来る限りの情報を集めました。特に助かったのは、スタンフォード大学のポスドク用のwebsiteです。スタンフォード大学はポスドクの受け入れに非常に慣れていることもあり、留学前後に必要な多くの情報を提供してくれました。

生活情報(家賃・食事・保険)

ご存知の方も多いかもしれませんが、シリコンバレーは物価が高いです。特に住居に関しては異常なくらいです(サンフランシスコ市はITバブルの影響を受けてか、最近アメリカNo.1の家賃の高さになってしまったようです)。私は家族(妻と子供1人)で渡米しましたが、一般的な家族が住む部屋で最低2000-2500ドル/月かかります。特に大学近辺は高額で、3000ドル/月を超えるところもあり、貧乏ポスドクには非常に苦しい生活を強いられます。また車(10万キロ以上走った中古車でも結構な値段で売られている = それだけ車を大事にする社会)や外食もお金がかかりますので、私も含め、多くの日本人ポスドクは貯金を切り崩して生活しているようです。それでもスタンフォードで研究をしたいと思うのは、世界最先端の素晴らしい環境で研究ができる喜びがあるからかもしれません。

食事に関して、ベイエリアは日本人も多く、需要が多いため、NIJIYA、MITSUWA、MARUKAIといったスーパーがあり、簡単に日本の食材を手に入れることができます。日本料理屋も数多くありますので、和食を食べたければいつでも食べることができます。でも値段は基本的に現地の食材よりは高いので、財布と相談しなければいけません。

保険に関して、スタンフォード大学の場合、ポスドクであれば必ず保険に入らなくてはならず、3-4人家族の場合、月に3-5万円払えば(給料から天引き)、日本の医療費に近いレベルで医療を受けることができます。月に数万円払うことが高いか安いかは人それぞれかもしれませんが、きちんとした保険に入っていなければ風邪をちょっとひいたくらいで数万円払わなくてはいけないアメリカの異常な保険制度を考えれば、我々ポスドクはかなり恵まれていると思います。

生活に関することで悩むことは多いですが、スタンフォード日本人会(SJA)をはじめ、日本人コミュニティーがたくさんありますので、みんなで助けあってsurviveしています。

留学して良かった事

Hoover Towerの前

チャレンジ精神が身につく!

先にも述べましたが、スタンフォードを含む、シリコンバレーにはスタートアップの会社(ベンチャー企業)がたくさんあります。私は別に会社を立ち上げに来たわけではありませんが、ここにいると何かにチャレンジしないでどうする!という、良い意味でのチャレンジ精神に火がつきます。それ以上に素晴らしいと思うのは、たとえ失敗しても別にまた次がんばればいいじゃないか!という雰囲気があるところです。周りの環境は大事だと痛感しました。

世界から見た日本の状況がよく分かる!

留学生が必ず?!口にする言葉に「日本のことをよく知らず、現地の人に何か質問されても答えられなかった・・・。」ということがあります。スタンフォードには世界中から様々な国の人が集まっていますが、ちょっとした雑談の時に母国の政治や流行っていることなどが話題になることがあります(一般的に政治や宗教に関する話はタブーですが、状況によります)。こういう話をしているといかに自分自身が日本について知らないかを、また相手が日本について誤解している部分が多いかを感じます。いろいろな意味で勉強になります。

様々な分野のスペシャリストと出会うことができる!

スタンフォードには各分野の優秀な人が数多く集まっています(大学内に限らず、googleやfacebookなどの関係者とも知り合いになる機会が多くあります)。その辺をノーベル賞受賞者が歩いていたりもするようなことがよくありますが、みなさん話しかけると気さくに応じてくれるのがアメリカらしいところかもしれません。各分野のスペシャリストと知り合い、ディスカッションをすることで、広い視野で物事を考えることができるようになります。  

留学して悩んでいる事

何を書こうか考えましたが、結論から言うと、悩んでいることはありません。細かいことを言えば、物価が高くてお金がかかることや、英語がイマイチでディスカッションにガンガン参加できないなどがありますが、その辺のことははじめから予想した上でこちらに来ているので、悩みの一つとして考えていません。いや、本当は心の奥底で 悩んでいるのかもしれませんが、周りの「とりあえずあれこれ悩まず、やってみよう!」的な雰囲気に騙されているのかもしれません。ここは一つ、郷に入っては郷に従えで、騙され続けてみようと思います。読者の皆さんは私と違ってはるかに賢い方たちばかりでしょうから、いったん日本を飛び出してしまえばいくらでもうまくやっていけると思います。あとはあなたの飛び出す勇気にかかっています!!

最後に、ここに書いたことが皆さんの役に立つとはあまり思えませんが、「お前の体験記読んだけどつまらなかったぞ!」など、何でも良いのでご意見・ご感想を頂ければ幸いです。皆さんのworld wideなご活躍を心よりお祈りいたします。

参考文献など

スタンフォード大学 Wikipedia
スタンフォード大学病院
Stanford University, Office of Postdoctoral Affairs
在サンフランシスコ日本国総領事館
Majeti研究室
スタンフォード日本人会(SJA)
中内祐介研究内容
Relo Redac, Inc.
こんなwebsiteがあったなら・・・。ぜひフィードバックをお願いします!!
「研究留学術 第2版―研究者のためのアメリカ留学ガイド」門川俊明 著 医歯薬出版株式会社
かなり詳細に様々なことが記載されていますので参考になると思います。一部の古い情報に関してはネットで調べてください。
「スタンフォード 21世紀を創る大学」ホーン川嶋 瑤子 著 東信堂
こちらは留学というより、スタンフォード大学そのものについて詳しく書かれたものです。日米の大学の違いをスタンフォード大学と比較しながら書かれています。
「SF テレフォンガイド 20XX」
Bay area内の日系スーパーマーケットなどでしか手に入りません。基本的に電話帳ですが、付録のページが充実しており、特に運転免許取得の際の筆記試験用練習問題は参考になりました。
ベイエリアに来ることが決まった際は参考にしてみてください。
「アメリカでお医者さんにかかるときの本」
保険のことや病気になった時のことなど、面白いことがいろいろ書いてありますが、いよいよアメリカに留学することが決まってからでも良いかもしれません。
The World’s Most Innovative Universities (2015)

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2018年3月24日(土)
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